どうも、こんにちは。トイロジック企画のTです。私は株式会社スクウェア・エニックスより発売された『FOAMSTARS』でアウトゲームのリードプランナーをしています。
本記事では機能実装の際のゲームプランナーの役割について、私が担当した「ラウンジデコレーション」
という機能の実装を例にご紹介していきます。
目次
ラウンジデコレーションとは?
実例を見る前に、まず『FOAMSTARS』 のラウンジデコレーションがどういった機能なのか?についてご説明しておこうかと思います。知っている方は、読み飛ばしていただいてOKです。『FOAMSTARS』 のメニューは、キャラクターを3D空間上で操作して様々な機能にアクセスできるプレイアブルメニューが採用されています。この空間は、ゲーム内では「ラウンジ」と呼ばれています。
そして、そのラウンジの一角を自分なりにエディットできるのが、今回ご紹介する「ラウンジデコレーション」。ゲーム内で手に入る「ラウンジデコレーションアイテム」を自由に配置し、ラウンジを自分のお気に入りの見た目にカスタマイズすることができます。言葉だけで説明してもわかりにくいと思いますので、デコレーションしている様子を貼っておきますね。
ラウンジデコレーションの制作過程
では、実例の紹介に入っていきましょう。実は制作の過程で、ラウンジデコレーションは一度大きく作り替えられています。改修する前は、充分にハウジングを楽しめる機能を満たしていませんでした。そこで私がハウジング機能の改修を担当することになったのですが、今回はゲームプランナーとして実際に行った対応を見ていきます。
完成像を作り、チームへ共有する
改修にあたり、まず着手したのは「完成像を決める」ことでした。
当時はユーザーが遊んだときの「理想像」がしっかり想定されておらず、
- ユーザーが遊んだときに、ラウンジがどういう見た目になっていてほしいのか?
- ユーザーがどういう風に遊んで楽しむか?
の2つがあいまいなまま、実装が進んでいる状態。取ってつけたような機能が多く、満足にカスタマイズできる状態ではありませんでした。そこで、この2つを決めていくことから始めました。
どういった見た目になっていてほしいのか?
まずは、「どういった見た目になっていてほしいのか?」の部分についてです。見た目を決めていくにあたりディレクターとすり合わせを行い、「内装を作りこんで遊ぶ」というよりも「街の一角をデザインする」という方針になりました。
この方針のもと、背景班がサンプルの作成を行いました。ゲーム内ですでに使われているアセットを使うという大前提があったので、サンプルはレベルエディタ上で実際にアセットを配置して制作してもらっています。
完成したサンプルは、ディレクター、チーム内でイメージを一致させるのに大変役に立ちました。チームメンバーがそれぞれバラバラな完成像を持っていると、できあがったものが「なんか違うなぁ」となってしまうことが往々にしてあります。
また制作過程で「どういう風になるんだろうなぁ」という不安も生まれやすくなります。なので、チーム内でイメージを一致させることはとても大切です。行ったことは単純なことではありますが、ここでのイメージ作成はやっておいてよかったなと思います。
ユーザーがどういう風に遊んで楽しむか?
続いては、「ユーザーがどういう風に遊んで楽しむか?」についてです。こちらもまずはディレクターとすり合わせを行い、以下の方針を決めました。
- 自分のデザインした街を披露して自慢する(ユーザー間のコミュニケーションの促進)
- 地形を自由にカスタマイズしてラウンジ内で自由に遊ぶ(ラウンジの遊びの拡張)
この方針からハウジング機能が目指すべきところを、「ユーザーが創造性をフル活用し空間を自由にデザインできる機能」と定めました。ユーザーがやりたいと思ったことを実現できるように、なるべくできることに制限を付けないよう意識して実装を行いました。
また自由であっても不便であったら、ハウジングする楽しさよりもストレスが強くなります。これでは楽しく遊ぶことはできません。そのため、ユーザーのストレスを減らすように機能の追加や整理を行っていきました。
実際に行った対応を以下に記載しておきます。興味のある方は、ぜひ見てみてください。
- 視点をプレイヤーカメラから俯瞰カメラへ変更した
室内のような狭いエリアをハウジングする場合は、プレイヤーを動かして配置する方法でもよいです。ただ今回は一つの街をつくるイメージに近いので、広いエリアをハウジングすることになります。プレイヤーカメラだと、キャラクターを移動させるのに時間がかかり手間を感じたり、オブジェクト同士の位置関係がつかみにくかったりするため、俯瞰カメラを採用しました。 - メニューのフローをより使いやすいように整理した
煩雑になっていたメニューフローを見直し、ストレスなく各機能にアクセスできるように整理しました。 - 配置をより自由にした
自由に空間を作れることが重要であるため、配置の自由度をあげる必要がありました。そこで、オブジェクト同士のめり込みは許容したり、オブジェクトの高さを自由に変更できるようにしたりなどの調整を入れています。またオブジェクトの角度、大きさも自由に変更できるようにしています。 - リスポーン機能を用意した
オブジェクトを自由に配置できるということは、予想外の隙間にプレイヤーが挟まって動けなくなるなど、スタックのリスクが高いということです。
1つ1つの不具合をつぶしていくのは現実的ではないため、リスポーン機能を新しく実装しました。 - 細々としたストレスを緩和した(連続配置、回転/サイズ変更のスナップ機能を実装)
配置という繰り返し行うアクションを簡単にできないとストレスが高まります。それを防ぐため、同じオブジェクトを連続で配置しやすくする機能を入れました。またきれいに置くまでに時間がかかると、ストレスにつながります。簡単にきれいに配置できるように、回転/サイズ変更のスナップ機能も入れました。
このように固めていった完成像は、チーム内へしっかりと共有しています。その結果、チーム内からは「もっとこうしたほうが良いのではないか?」など様々な意見が積極的に上がってきました。
おかげで、自分1人で悩んで考えた機能よりも優れたものが出来上がりました。
チームで完成像が一致していれば、メンバーが目的に沿ったより良いアイディアをあげてくれます。そのためにも、完成像をしっかりと固めてその情報をチーム内へ共有することが大切になります。
最終的なクオリティに責任を持つ
実はこの機能の作り変えに与えられた期間は約1カ月でした。この短い期間でユーザーが十分に楽しめるクオリティに仕上げるためには、必須な機能を選別して実装を進める必要があります。
先ほど固めた完成像をもとに、仕様を決めるときやチームから意見が上がったときに「どの機能があればユーザーが楽しんで遊んでくれるのか?」を判断していきました。そのおかげで、必要なものだけに絞って実装できましたし、判断が二転三転することもありませんでした。
また今回のスケジュールはイレギュラー要素が多いため、実装のスケジューリングも工夫しています。
具体例を一部あげます。
- 実装されたらすぐにチェックしてフィードバックする
当たり前ではありますが、実装された機能はすぐにチェックし、フィードバックの内容についてメンバーと密に相談し合いました。また実際に何回もハウジングをしてみて、使いにくいところを極力減らすようにしました。 - ディレクターのチェックを細かく行う
普段よりもディレクターに細かく成果物を見せてフィードバックをもらうことで、時間のロスを減らしました。 - 処理負荷の調整を並行して行う
オブジェクトを置きすぎると処理負荷が上がり、動きがカクついたり、最悪クラッシュしてしまうこともあります。そのためにも、配置できるオブジェクトの上限数を決める必要がありました。負荷検証用のアセットを用意し、それを配置して最大4人でラウンジで動きまわった際に、処理負荷が許容ラインになるかどうかを何度か試行して、上限数を決めました。このような処理負荷の調整は、通常はすべての実装が終わった後に行うのですが、実装の完了を待つのは非効率なため並行して調整を行っていきました。
理想を言えば、永遠に調整を続けて120点満点のクオリティを目指したいところです。しかし、製品である以上、スケジュールがあり、限られた時間の中で最高のものを仕上げる必要があります。リリースが迫る中、理想にどれだけ近づけるか、どこまでクオリティを高めるべきかを判断し、スケジュールを調整することがプランナーの役割です。そのためには、事前に完成像を明確にしておくことが重要です。
終わりに
ユーザーの反応を見る限りでは、ラウンジデコレーションは好評だったと感じています。短い期間での実装だったため、色々とあきらめた機能も多いですが、楽しめる機能として良いクオリティに仕上がったのではないか?と考えています。
あらためて振り返ってみると、
- 完成像を作り、それをチーム内に共有する
- 完成像をもとに最終的なクオリティに責任を持つ
という立ち回りをしっかり出来たことがラウンジデコレーションの出来に繋がっているのではないでしょうか。これらはゲームプランナーとして働くうえで大事な要素ですし、これからも忘れないようしっかり意識していきたいポイントです。
最後になりますが、「事前に完成像を明確にしておくこと」でチームメンバーが積極的に意見を出してくれたおかげで、タイトなスケジュールでも無事リリースまでたどり着けたと思っています。この場を借りて、改修にあたり尽力してくれたチームメンバーにあらためて感謝します。また最後までお読みいただいた方もありがとうございました。
また機会がありましたら、お会いしましょう。
 
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