こんにちは。『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』にて、新規シナリオ部分のゲームデザインを担当したクルミンです。ゲーム業界に入っての経歴は10年以上で、ディレクター伊藤の先輩にあたります。当初、社内の別のプロジェクトに携わっていましたが、新規シナリオの制作が本格化するタイミングに合わせ、開発中盤から本作に関わることになりました。

「ニーアレプリカント」とはどういったゲームか

ニーアレプリカントとは、2010年に発売されたアクションRPGで、本作『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』は、過去作のグラフィックを一新、さらに新規シナリオを追加した、バージョンアップ作品となります。本記事では、その新規シナリオ部分のゲームデザインにおいて、重要な部分をピックアップして紹介します。
一部ネタバレがありますので、まだ本作を最後までプレイしていない方はご注意下さい!

作品が求める体験の理解

新規シナリオ部分は、過去作品でボツになった部分や、設定資料集に書かれていた短編小説などが元となっており、ゲーム部分は一から構築しなければなりませんでした。ゲーム開発においては、作品がどのような体験を提供するか、ならば最終的にどのような実装にするべきか、ゴール像を見据えるのが重要です。

本プロジェクトでは元となる作品もあり、体験は定められておりましたが、新規シナリオ部分の追加に加え、10年前の作品を作り直すにあたり、ブラッシュアップが必要な仕様やアセットを洗い出す必要がありました。修正すべき内容は多岐にわたり、膨大な数のタスクが発生しました。

積みあがったタスクの中、ゴール像がしっかりと想像できていないと、何をどの順番で治すべきか、優先度の判断が出来ません。プロジェクトによりますが、ゴール像と治すべき場所をドキュメント化し、タスクをリストアップした上、チーム内で何を目指し、何から着手すべきか、認識を共有します。ゴール像を明確化するため、まずは過去作を知るところから着手しました。

『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』SS

自分たちも作品を楽しみ、体験を知る

私はプロジェクトに参加した直後、過去作「ニーア レプリカント」のプレイ動画を何度も確認し、世界中で高い評価を受けた「ニーア オートマタ」を繰り返しプレイしました。ユーザーの皆様がどこを魅力に感じたのか、何を求めているのかをしっかりと調査するためです。

私たちゲームデザイナーは、様々なパラメーター、データ、プレイ時間、ストップウォッチを使ったテンポの調査等々、数値的分析も行いますが、本作の特徴である美しく、どこか退廃的な雰囲気や、ユーザーが受ける感情といったものは、実際にプレイして自分自身で感じる必要があります。何が良いのか、どう良いのかを自分自身で理解し、楽しまないと、表現するべきものがズレてしまいます。

ストーリーを届けるゲームデザイン

作品の体験を自分なりに理解をした後は、その時点で上がっている新規シナリオを熟読させていただきました。本作のようなゲームでは、ストーリーがゲームの流れを作ります。本作をプレイした人がストーリーでどのような体験をするか、それによりどんな感情が呼び出されるかをしっかりと考えます。

本作のケースでは、セリフが先に出来ており、セリフの流れや既存の仕様から大まかに話の筋、時系列にどういったシーンがあり、どのキャラクターがどう行動した、という出来事を書きだします。さらに、簡易的な感情曲線と呼ばれるものをストーリーを見ながら作成します。ユーザーの皆様がどこでどういった感情を受けるか、その感情の強さはどういったレベルかを想像し、主観的なものですが、数値化されたグラフのようなものを作ります。

これを作ることにより、アイデアを考えるときに、そのアイデアが感情と即しているか、ユーザーに感じてもらいたいことが伝わるのか、また、前後の感情と合致するか、強度はどうかという、仕様と体験の正誤の指針とすることができます。例えばですが、キャラクターが恐怖し、何かを怪しみながら進んでいるシーンで、その後に激しい戦闘があるのであれば、戦闘や謎解きは最小限にするべきです。

『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』SS

担当以外の周辺仕様を把握する

私は新規シナリオ部分のリーダーをしており、関連する多くの仕様に関わりましたが、例え一つの仕様の担当者であっても、周辺仕様の把握は欠かせません。

レベルデザイン(環境や地形の設計)一つとっても、プレイヤーの移動方法やパラメーター、カメラの仕様を理解していないと、どのような速度でどう移動してしまうのか、セリフがどこで発生し、どう途切れるのか、ユーザーの皆様にどう見えるのか、ならばどうゲームを進行させればよいのか、イメージすることができません。

ユーザー体験を想像した仕様作成・改変

本プロジェクトでは、私は途中からの参加となり、すでにいくつかの仕様が進められている状態でした。私は上記、体験の分解やシナリオ、感情曲線、周辺仕様から、進行している仕様の中断や、変更を行うこととなりました。

ロジックで説明できる仕様は説明し、感情や体験に影響する仕様は、ビジョンとその結果を繰り返しコミュニケーションを取り、伝えていきます。コミュニケーションは社内だけではなく、体験をよくするためであれば、パブリッシャーへ仕様やアイデアの提案も行います。

実際に新規シナリオでのいくつかのセリフは、弊社のアイデアを採用していただいたものです。(ありがとうございます!)トイロジックでは、オリジナル作品の他、受託開発を行っていますが、こちらから一切アイデアを出せない、ということはありません。ほとんどの現場で、パブリッシャー、開発双方から様々なアイデアを出し、コミュニケーションしていきます。

こちらはオマケ情報ですが、『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』の新規シナリオ、物語の最後まで遊んでいただいた皆さんにはわかるかもしれませんが、ありますよね、弾幕! 何故あれを入れたか、という理由ですが、私もファンとして、弾幕を求めるから入れたものです。

かつ、適当な弾幕ではありません。詳しくは書けませんが、海岸の弾幕は、海の波や生命をイメージした弾幕を、最後の弾幕は、いつか別の作品…例えばドラゴンに乗って戦うようなゲームの最後でも見たことのある、白黒の輪をイメージし、弾幕にも物語性や世界観を反映させています。ファンである自分自身もですが、遊んでいただいた人に、アクションを通して感じる体験から興奮や感動を受けていただければ嬉しいです。

『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』SS

チームとのコミュニケーション

また、開発中にチームの成長も同時に考えます。スタッフに日常的にコミュニケーションを取る中で、個々のメンバーがやりたい事もヒアリングします。

やりたいことをベースに、一部のメンバーとは一緒にキャリアパスを考え、どういった人間になっていきたいか、そのためにはどういった技能が必要か、その技能を習得するためには何をすればよいか、働く上で注意するべきことは何かなど、良い作品を作るとともに、チームが成長していくように考えて行動をします。

例えばチームの若いメンバーが、アイデアを出したいというものがあれば、意見を聞き、問題のある所は指摘し、アイデアの出し方やコミュニケーションにアドバイスを行い、一部は実装し、良くない点はフィードバックして改善していき、経験を積ませる、ということをしていました。(実際に、若手メンバーの意見は製品に取り入れられております)

最後に

新規シナリオの開発では、ここには書けないようなことが色々とあり…すべてを紹介しきるのは難しいため、いくつかのポイントのみ書かせていただきました。本稿のタイトル「人と体験が作る新規シナリオのゲームデザイン」ですが、ゲームがどのような体験を与えるのか、体験を受ける人、体験を作る人達をどう重視し、また作品を作り続けられるようにするのか、断片的にでも伝えることができれば幸いです。

トイロジックのメンバーは、ユーザーの皆さんの気持ちや体験を考え、ゲームをデザインし、価値ある体験を届けていきたいと考えています。また、そのためにはチームを育て、皆さんにお届けする作品がよりよくなるよう、毎日仕事をしております。

再び皆さんを楽しませる作品で出会えると嬉しいです。それではまた。

著者紹介 クルミン
2009年にトイロジック中途入社。『Happy Wars』のアクション、『ハッピーダンジョン』でのディレクションに携わる。現在は社内の複数のタイトルの仕様、ゲームデザイン、バランス、仕事の進め方についてチェック及び指導を行う。

 


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