【ニーア レプリカント ver.1.22の開発を振り返る】”Version Up” のコンセプトと、原作から色々変えすぎて大変だった話
こんにちは、イトーです。『NieR Replicant ver.1.22474487139…』では開発ディレクターをしていました。今回の記事では、本作が10年の時を経て「バージョンアップ」するにあたってどのようなコンセプトをもってあの名作に手を入れたのか解説していこうと思います。
偉大なる『前作』と『原作』
本作を開発開始するにあたって、真っ先に私が抱いたものは『NieR: Automata』の特大ヒットでシリーズがこれ以上なく盛り上がっている今こそ、《全ての始まり》を「今」のお客さんに届けたい、という使命感 でした。
本作がリリースされるまで「『NieR Gestalt/Replicant』を遊びたいが叶わなかった」という人は多かったと思います。もちろん押し入れからPS3かXbox 360を引っ張り出してきて遊ぶこともできたでしょうが、11年前の作品を今遊んだからといって、11年前の感動をそのまま味わうことはできません。ゲームは毎年ごとに驚くスピードで進化し続けていますし、時代とともに私たちの価値観自体も変化しているからです。
こうなるともう「頭に強い衝撃を与えてちょうどここ11年くらいの記憶を消し飛ばす」しか手段がないのですが、開発チームみんなで全世界のNieRファンの頭部をポコポコ殴って回るわけにもいきません。
じゃあもう「今」の人たちが「当時の感動」を遜色なく味わえるように、『NieR Replicant』の方を「バージョンアップ」させるしかない! そんな想いを胸に、『NieR Replicant ver.1.22474487139…』は開発がスタートされることとなりました。
キーワードは『「原点」の面白さをそのまま――もしくは過去以上に、「今」楽しめる形にする』です。
私が最初にしたコト
で、開発の最初に何をしたかというと「ひたすら原作を遊び直す」。コレです。
いやあ。さすが。面白い。熱い。そして――――泣ける。一番涙腺に来たのはBエンドでした。ニイチャン……。ただ一方、プレイ中に「あれ、こんなゲームだったっけ?」と何度も首をひねることになりました。マップにそよぐ風と光の美しさ・スピーディーなアクション・さりげなく心に浸透し、物語に没入させる演出。そのどれもに今なお輝く魅力を感じつつ、一方で「美化された記憶」との大きなギャップに襲われたのです。
他にも細々としたところを上げると、
- 「ロックオン」ってなかったんだっけ?
- 「白の書」ってプレイヤーの近くに常時表示されないんだっけ?
- 魔法のチャージ中って動けないんだっけ?
- 空中で魔法って撃てないんだっけ?
- アイテムを拾うのにこんなに時間かかったっけ?
- こんなに頻繁にダイアログメッセージで時間が止まったっけ?
- 剣を持ったまま走ることってできないんだっけ?
- パッド振動ってないんだっけ?
などなど。
どれも11年前の当時はほぼ気にならなかったのに、「今」はこんなに色々なことが目に付いてしまう。当時純朴な20才だった私は、11年経ってすっかり世間の垢に塗れてしまいました。
つまり、私たちが原作をプレイして感じた「当時の感動」を現代に復元――あるいはより高めるには、これらの課題をクリアし「美化された記憶」に打ち勝たねばならなかったのです。
じゃあどれくらい変えたのか
じゃあビジュアルやアクションの他は、前述されたものだけ変えればOKだったのか、というと……まあ当然それだけでは足りませんでした。
チームで検討を深めたり、実際にモノが実装されていく過程で、変更が変更を呼び次々と対応すべき課題は増加、増加、増加。それ自体は『開発あるある』なのですが、それにしたって尋常じゃない増えっぷり。
しかし実際に本作をプレイして頂けた方々の感想を拝見していると、こんな裏事情があったとは思えないくらいに「新旧の融合」を自然体で楽しんで頂けたのかな、と冥利に尽きる思いになります。
というかあまりに自然すぎたのか、“アレ”とか”ソレ”とか、原作から変わっていることに誰も気付いていない疑惑があります。誰か気づいてくれるかな……とワクワクしていたら気づかれないまま1年経ったので、もう自分で言ってしまいます。
すべての敵の挙動を調整した
変えましたよ、色々と!
- 「打ち上げ攻撃」の追加に合わせて「敵が宙に浮くリアクション」を追加したり、
- 新しいハイスピードアクションに合わせて、行動速度や弾の速度、敵の攻撃が主人公に与えるリアクションを変更したり、
- 攻撃を当てたときにより手ごたえが感じられるように、モデルがブルッと震える「加算モーション」を入れたり、
- 敵が鎧を着ている間は攻撃が当たっても出血しないようにしたり、
- 巨大な敵がカメラに被ったら、敵モデルが透けるようにしたり、
- ジャストガードに対応していなかった敵を、新たに対応したり………………
といった対応を全ての敵に行ないました。
敵は原作データの構造がよく分からなかったり、原作のデータ自体が見つからないことも多かったのですが、エネミー担当のプログラマが強引にデータを復元・改造しながら、粘り強く改良を続けてくれました。
カットシーン以外でもキャラが口パクするようにした
何と本作はNPCまで含む全キャラが喋る「フルボイス対応」となりました! スゴイ、贅沢! そしていざ収録されたボイスを実装した瞬間、会話中にキャラの口元が動かないことへの違和感がすごかったので、メインキャラクターが足を止めて会話するときは口パクするようにしてもらいました。
原作データの構造との兼ね合いで対応の自動化ができなかったので恐るべきことに台詞一つ一つを見ながら、手動で口パクフラグをオンオフしました。根性系IT企業、トイロジック。
お客さんがより没入できるように心を砕いた
『NieRシリーズ』を珠玉たらしめているものとして「ゲーム中のあらゆる遷移が滑らかで、物語に深く没入し続けられる」という点があると思います。
始祖たる原作『NieR Replicant』でも、もちろんその思想はしっかりと生きています。しかし前作『NieR: Automata』で更に表現が磨かれ、『ver.1.22』でよりグラフィックをクオリティアップしたことで、原作のままだと相対的に物足りなくなってくる部分がありました。
その他にも『ver.1.22』で武器を構えたまま走れるようになったことや、武器カテゴリごとに待機ポーズをガラリと変えたことで、イベントシーンとの接続が乱れるところもちらほらと…………。
よし……
じゃあ…………
ぜんぶ調整するか!
というわけで、全てのシーンで新旧モーションが滑らかに繫がるよう見直し、更にフェードIN / OUT が短すぎたところも余裕を持たせ、マップ遷移するときは次のマップの明るさに合わせて白と黒のフェードINを使い分け、会話イベント中は必ずカメラだけは動かせるようにしてプレイヤーとゲームの繋がりを保ちつつ、画面上下に黒帯を入れてイベントらしく…………ラジオ会話が中断されることないよう…………遷移時の音の繋がりも…………
…………………………………………皆がんばったな!!
発売されて
発売前はお客さんがどんな反応をするのか戦々恐々としていたのですが、結果としてたくさんの方々に楽しんで頂けたようで本当によかったです。発売直後は「NieR Replicant ver.1.22」「NieR Re[in]carnation」「NieR: Automata」の三作で相乗的に盛り上げ合う、NieR史に残るお祭り騒ぎになったのではないでしょうか? もちろん私自身もいちファンとして、皆さんと一緒にシリーズ11周年を楽しませて頂きました。……えっ……もともとは10周年記念作品予定だった? はい……その通りですね……すみません……今後もよろしくお願いいたします……。