【連載】5チーム100人対戦のレベルデザイン ~第2回「プロトタイプ設計編」~
皆さん、こんにちは!私はトイロジックの開発部企画課に所属しているOです。
『Warlander』の最大100人で遊べる「5チームバトルロイヤル」モードのレベルデザインを担当しました。
この連載記事では、100人ものプレイヤーが入り乱れるステージをどのように制作したか、その裏側をご紹介します!
前回のおさらい
前回の記事の中で、レベルデザインの制作プロセスを4つのフェーズに分類しました。
レベルデザインの制作フロー
- 目指すべきコンセプトの理解
- ステージ全体のプロトタイプ設計
- 各エリアごとの詳細設計
- ビジュアル調整
前回はステージ制作の第一段階として、ゲーム全体のコンセプトを理解することの重要性についてお話ししました。
今回は次のステップとして、コンセプトを元に「2. ステージ全体のプロトタイプ設計」を行う過程を掘り下げていきましょう。
仮説と検証の重要性
レベルデザインを行う上で目標となるのは、『Warlander』のコンセプトである「戦況に応じた戦略的でスペクタクルな戦争体験」を助長するステージを設計すること。
それを実現するため特に意識したのは、コンセプトに基づいた仮説と検証のサイクルをまわすことです。
ゲームが目指すべきコンセプトを理解していれば、それを実現させるために各仕様がどうあるべきかの仮説が立つ。立てた仮説の正当性を検証し、問題があれば仮説の修正と検証を繰り返すことで、コンセプトの目指す体験を追求していく。
そのプロセスこそが、効率的に一貫性のあるステージを製作する鍵と言えます。このことを踏まえた上で、5チームバトルロイヤルのプロトタイプ設計を紐解いていきましょう。
5チームバトルロイヤルのプロトタイプ設計
5城の位置関係についての仮説と検証
5チームバトルロイヤルは最大100人が入り乱れる巨大ステージ。そのため、よりマクロな視点から段階的にデザインしていく必要がありました。
私たちが最初に手を付けたのは、各チームの城(防衛拠点)の位置関係についての仮説です。
「城の位置関係を非対称にすることで、チームごとに異なる進軍戦略が必要になり戦争体験に没入感を与えるのではないか」
この仮説を検証するため、まずは仮アセットを用いた簡単なプロトタイプを作成しました。
作成したプロトタイプステージを用いて、チーム内で検証テストを実施。すると、チーム間の不公平さを感じるという意見が多くのテスターからあがりました。
早速、地形的に攻撃を受けやすい城を高地にして問題の解決を図ると、チーム間の勝率は均等化しバランスが改善! 非対称な地形でありながらも、データ上は公平性のあるステージになった!
…と喜んでいたのですが、テスターからは依然としてチーム間の不公平さを感じるとの指摘が多数届きました。それは、全体マップ(上面図)を見た時に、特定の城が位置関係的に不利だという印象を与えていたことに起因していたのです。この経験を通じて、データに基づく分析だけでなく、実際のプレイ体験や感覚への配慮の重要性を深く理解しました。
ここから小さな仮説の修正と検証を繰り返し…しかし、根本的な問題の解決には至らなかったため、仮説に大きな修正を加えました。
「城は対称設計にして公平性を保ちつつ、城ごとの特徴を差別化することでチームごとの異なる戦略の多様性や進軍体験を担保できるのではないか」
これが現在リリースされているステージ「ペンタゴン」の原型になります。
仮説を元に再びプロトタイプを作成。
テスト検証した結果、公平性が保たれると同時に、以前に比べて戦略性が向上したという意見が多数寄せられたのです。
こうして仮説と検証を繰り返すことで、効率的に各城の位置を決定することができました。
エリア分布についての仮説と検証
城の位置関係が決まったところで、次はエリア分布に関してコンセプトを満たす仮説を考えていきます。
「ビジュアルと戦闘体験に関して、エリアごとのコントラストを明確に設けることで、よりスケール感と没入感の高い戦争体験を提供できるのではないか」
この仮説に基づき、ステージの各エリアにそれぞれ独自のビジュアル特徴と戦闘体験のコンセプトを組み込みました。
また、空間サイズや標高についても、各エリアの接続にコントラストをつける事で進軍時のスケール感や没入感を高める工夫をしています。
すると、検証テストで「攻める城によって体験が違って楽しい」、「壮大なステージを進軍する高揚感がある」といった意見が多数みられたのです。
「ビジュアルの変化にコントラストをつけることで、スケール感や没入感のある戦争体験を与えられないか」
各エリアの特徴となるビジュアルや戦闘体験のコンセプトなどの要素を再確認し、隣接するエリア同士で各要素のコントラストがはっきりするように意識した再設計を行いました。
このようにコンセプトに基づいた仮説と検証を繰り返しすことで、段階的にステージ全体が形作られていきました。
今回は一部の例を元に説明しましたが、移動距離や攻城兵器の位置など全てにおいて、この方法を適用しています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回の記事では、ステージ全体のプロトタイプ設計の一部を紹介しました。大規模なステージデザインでは多くの決断が必要ですが、コンセプトに基づいた仮説と検証のサイクルを通じて一歩一歩着実に進めることができます。
ゲームごとに制作フローはカスタマイズしていく必要がありますが今後皆さんがレベルデザインをしていくとき、この記事が少しでも参考になれば幸いです。
今回でステージ全体の動線やエリアの分布が決まったので、次回は各エリアの詳細な配置設計をする上で工夫したことを具体的な事例を交えてお伝えしていきます!
それではまた次回の記事でお会いしましょう。この記事を読んで、興味を持たれた方はSteam、PlayStation®5、Xbox Series X|Sで『Warlander』の無料プレイもお忘れなく!