こんにちは、イトーです。
株式会社スクウェア・エニックス様より発売の『NieR Replicant ver.1.22474487139…』というゲームだと開発ディレクター、『FOAMSTARS』というゲームではアクションを作ってる者です。
移動。一番よく目にして一番長く操作する重要なアクションだと思うのですが、その割に(それゆえに?)周囲から作り方を訊かれることが多いです。
本稿ではこの機会に私なりの勘所を実例付きでまとめておこうかと思います。初心者向け。走り出しからブレーキまで時系列順で。
引用先は、
- 弊社開発『NieR Replicant ver.1.22474487139…』
- 私のバイブル、プラチナゲームズ様開発『NieR:Automata』
- 対戦アクションの例として、弊社開発『FOAMSTARS』
今回は「頭身高く、スピード高めのアクションゲーム」が対象です。デフォルメが強く効いたゲームや、フォトリアルなゲームではまたちょっと違うのでご注意を。
目次
【1】「走り出し」はグッと
「走り出し」について、よく「必ず最初にグッと踏み込む演技を挟んでください」と指示します。
これには演技を自然にしたいとかキャラクター性を出したいという理由以外に、「別アクションからの接続を滑らかにしたい」という意図があります。
コンボを次々決めていくようなアクションゲームでは、アクション同士が繫がるときに「実は前後のポーズが全然違う」ということがよくあります。この接続を滑らかに見せるコツに「動作のアタマにグッと大きな動きを入れておく」というものがありまして、その一環で「走り出し」にもこういう動きをよく入れます。(逆にシューターのように、速度変化がマイルドだったり、ポーズのシルエットが立位から大きく動かないゲームだと本項の重要度は下がると思います)
ともあれ「走り」には様々なアクションから接続するので、特に繋ぎを気を付けて作っています。
【2】「移動速度」と位置調整
キャラクターの移動中、目的地と自分の位置がズレたり、行き過ぎたりしないようにしたいものです。(当然ですけど)
『FOAMSTARS』では、スティックの倒し方に応じて移動速度をリニアに変えて、微妙な位置調整ができるようにしてます。
これは、このゲームが「敵を精密に狙い、位置・間合いを細かく調整するゲーム」だから。
じゃあどのゲームでもそうすればよくない???
という気もしますが、この手法にはデメリットもあります。移動速度がうねうね変わると、移動モーションの再生速度も変わり、見栄えが安定しなくなるのです。
そういったこともあって『NieR』では「歩き」「走り」「ダッシュ」などの移動状態ごとに移動速度を固定してます。これは移動中、常に一番いい演技をお客さんに見てほしいから。アクションRPGでは「大ざっぱに長く」移動することの方が多いゆえの優先度判断と言えます。
【3】「旋回半径」と位置調整
突然ですが席を立って! そしたらちょっとそのあたりをぐるっと小走りしてきて。
…………。
……。
たぶん、弧を描くようにカーブしながら走ったと思います。
なのでゲームでもキャラクターが旋回移動するときは、弧を描くと生っぽい手ざわりになります。
一方で「Replicant ver.1.22」はAutomata より旋回半径が小さめ、移動速度も控え目。これはReplicantの街・ダンジョンがAutomataよりも入り組んだ設計になってるためです。
開発初期、試しにAutomataの移動性能を完コピした時代もあったんですが、主人公があちこちに身体をぶつけてたので変えました。(すまん)
一方「速度調整」の項でも触れた通り、細かい位置調整が発生するゲーム(プラットフォームアクションとかシューターとか)では、少しでも精密に操作できることが大事。
『FOAMSTARS』も細やかに敵を狙い・弾を避けられるよう、通常移動ではスティック入力を移動方向へダイレクトに反映させる形にしました。
【4】「旋回傾斜」はクイック + スロー
見出しの4文字しばり、だんだんムリが出てきたな……。
ともあれ旋回中の身体の傾き、トイロジではよく「バンク」と呼ぶ要素について。
スティックを入れて急カーブするときは、バンクもグッと。身体を起こすときは時間をかけて。
『「曲がる」ときはグッと力を込め、「身体を起こす」ときは少しずつ慎重に重心を戻していく』という実際の身体の動かし方を考えると、納得してもらいやすいかなあと思います。(よく分かんなかったら席を立って走ってきてください。ウネウネ曲がりながら)
ただし傾き始める動きが急すぎると、小刻みにウネウネ曲がったときに「おきあがり小法師」のように滑稽な動きになるので気を付けて。リニアじゃなく、加速減速を付けるとよいです。
【5】「反転動作」で逆方向へ
とっさに逆方向へ切り返す時は、反転動作。
歩きでも走りでも「一瞬で逆方向へ向く」ような急な動きをするときは、相応の演技を挟んであげるとリアリティが出ていい感じ。ただし移動速度が速ければ速いほどブレーキ演技の尺ぶん操作を奪われてしまうので、見た目と操作感のバランスには注意です。
発動の判定は「スティックが勢いよく・ほぼ逆方向に倒されたこと」を拾うようなロジックにしてあげると、プレイヤーの意図に応じた発生をさせやすいはず。
【6】「ブレーキ」と位置調整
「位置調整しやすい移動」にするには「移動停止時」に滑りすぎないようにするとよいです。
なぜかというとアイテムを拾おうとしたり、人に話しかけようとして止まるたびに通り過ぎてしまわないようにしたいから。もちろん猛ダッシュ状態から止まるとき全く滑らないとそれはそれで画を損なうので、いい案配にしたいところです。
あと「少しだけ移動したとき用の停止アクション」を用意しておくと、キャラの位置を微調整しやすいのでオススメです。このように頻繁に見るアクションのバリエーションを設けることは、一様な印象を減らし、キャラクターを活き活きと感じさせやすくなりますし、いいことづくめ。
Automataも、この通り計2種類の走り停止が…………
3種類あるな…………。すご……。
【7】「右脚左脚」をキレイに合わせる
キャラクターが動いたり止まったりするとき、何かと「左右の脚」のタイミングが合わないことでガチャりがち。
例えば、
- 「歩き」から「走り」へ遷移するとき
- 「歩き・走り」から「ジャンプ」へ遷移するとき
- 「歩き・走り」から「ブレーキ」へ遷移するとき
などなど。
(3)のケースでいえば「最後にキャラクターが出していた脚が左か、右か」に応じて、停止モーションへスムーズへ繋げたいところです。
例えば「左脚始まり」「右脚始まり」の2種類の停止モーションを用意しておけば、どちらのケースでもモーションがある程度繋がりますよね。加えて、停止モーションの再生開始を遅らせたり、バリエーションパターンを用意して、うまく繋がるよう工夫をしているゲームもあります。
あるいは「1種類でも綺麗に繋がって見える演技にする」という解決方法も。むやみにたくさん作るとコストがもったいないので、高速ブレーキ系は一種類のものを磨き込むことが私は多いです。
以上、「移動開始」から「ブレーキ」までの移動アクションTIPSでした。ただ走るだけでも意外と色々考えているのです……。
それでは本記事は終わりです。ここまでご覧頂きありがとうございました!!
……
…………
と本記事を〆るつもりだったのですが 社のブログ担当から「半端なのでキリよく10選にしてください」と命令を受けました。えー、じゃああと3つだけ足します……なんかあったかな……。
【8】「背面固定」で動くなら
えっと、じゃあ「ガード中移動」とか「射撃中移動」みたいに「キャラクターがカメラに背中を向けながら、前後左右に移動する」モードについて。
色んな作り方がありますが、その一つが「8~10方向くらいの足運び」を用意しておくやり方です。
脚を前後に動かして歩かせる場合は、「脚の組み換え」が必要になるのでご注意。上の動画だと図説の通り「右後ろ」と「左前」でやっています。
移動方向に合わせて腰を回転させてもいいと思います。弊社開発『Warlander』はそうしてるんじゃなかったっけな?
【9】「壁ずり」挙動はさりげなく
キャラクターを狭い地形で操作していると、うっかり壁のコーナーやオブジェクトにぶつかることがよくあります。
このとき、あたかもキャラが衝突しなかったかのようにスルッと滑らせてあげるのがイイ移動。もちろん滑りすぎても操作ミスを誘発するので、ちょうどいい案配にしてあげたいところです。
『FOAMSTARS』は私がジョインした時点だと、壁にぶつかるように移動するとツルツル滑りまくる挙動になってたので(UE4のデフォ挙動なんですかね?)調整してもらいました。壁方向ベクトルの移動量だけが打ち消される感じ。
【10】「スピード感」はカメラもセット
キャラを走らせるときは、スピード感を出すためにカメラが少し置いていかれるようにすることが多いです。
ゲーム中の移動速度は相対的に感じるものです。例えば真っ白な空間で高速移動させても、キャラがどれだけ速く動いているのか分からないはず。
ですのでゲームの移動では「カメラが遅れて付いてくる」とか「(後ろへ流れる)周囲のものがよく見える」ような、相対要素を分かりやすく示すことが大事です。(つまり背景の情報があることも大事。床のディティールとか、環境エフェクトとか)
『NieR』では移動速度の高まりに応じて「カメラが少し置いていかれる」ようにしつつ「カメラを遠ざける」対応が入っています。これによって相対速度を感じさせやすくしつつ、周囲を把握しやすくしています。一石二鳥。
もちろんカメラが遠ざかると迫力を損なうケースもあるので、ケースバイケース。カメラを近づけつつ画角は広げることで、迫力と相対速度感を両立するゲームもあります。
『FOAMSTARS』もダッシュモードの時は画角を広げたり、後ろへ置いていかれるエフェクトを出すことで、なるべくスピード感を増す細工をしています。
以上、10選!!
「移動しているだけでも楽しいゲーム」を作るためのお役立ち情報、他にもいっぱいあると思います。お持ちの方は私のXアカウント宛てにゼヒ。
おしまい。
 
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